筑波山西麓に位置し、「公明」と「真壁」を醸す、茨城県桜川市真壁町の村井醸造。真壁町は全国一の規模である石材業を中心に、江戸時代初期から続く歴史的な街並みを中心とした商業、安定した気候と豊かな水源に支えられた農業で発展してきた町だ。戦国時代には城下町として栄え、今日まで酒を醸し続けてきた。豊かな緑に囲まれ、桜川へと流れ下る清らかな水は、全国で評価される羽鳥米と銘酒を生み出し、天領の地に選ばれた訳も納得できる。そして、日本三大名石のひとつである御影石が採れる地域としても有名だ。平安時代末期に常陸平氏の一派が拠点を置いて真壁氏を名乗り、中世を通じほぼ一貫して当地を支配したが、江戸時代には笠間藩の一部となり、城下中央に真壁陣屋が置かれた。


村井醸造の創業は1673~1680年と伝えられており、その歴史の長さから、蔵は登録有形文化財に指定されている。近江商人の村井重助が良質な米と水が揃っていることから、この地を選んだそうだ。最近、日本酒愛好家のあいだで密かに話題となっている注目の銘柄がある。それは30代の若手蔵人が手掛ける「真上」というブランドだ。この銘柄を蔵人の臼井卓二氏は「仕切り直し」と位置づけ、親方と慕う、南部杜氏である伊藤氏の指導のもとで2020年に立ち上げた。かつての村井醸造は県外に向けて積極的に営業をかけることに注力してこなかったが、次の時代は海外や首都圏などで選ばれる酒を醸す必要があると、臼井氏は社長を熱心に説得したそうだ。これまで、村井醸造の酒は「地元の葬式で飲まれる酒」というイメージが強かったが、これからは「県外で親しまれ、地域を豊かにする酒」というイメージに変えていきたいと構想を膨らましている。そんな「真上」は「落ち着きを感じられ、料理を引き立てる酒」として、飲食店を支える酒を目指し、5年目を迎える勝負の冬を前に課題となった醸造工程の見直しを行い、設備投資の計画を進めている。理想の酒質を主従関係で説明すると縦関係の酒を目指し、縁の下の力持ちとしての酒になれているかを常に念頭に置いているそうだ。今後、臼井氏は自らで良酒を醸すことで真壁の地域活性に貢献できたらと想いを膨らましている。これから更なる進化を遂げていく蔵であることは間違いなさそうだ。

古くから「西の富士、東の筑波」と称され、朝夕に山肌の色が紫色に染まることから「紫峰」と呼ばれている。筑波山の標高は877メートルで、関東平野に聳え立つ山として知られる。男体山と女体山の2つの峰を持ち、山中には1000種類以上の珍しい植物が群生している。標高270メートル地点の中腹には筑波山を御神体として祀り、3000年の歴史を有す筑波山神社の拝殿があり、男体山本殿と女体山本殿を遥拝している。ケーブルカーやロープウェイに乗車すれば容易に山頂にアクセスすることが可能で、誰もが気軽に美しい眺望を楽しむことができる。

文:宍戸涼太郎

写真:石井叡