


きこえるはずない 汽笛を聴いて
飲めば泣きそな ひとり酒。
ついてゆきたい ついてゆけない
燃やす切符の 残り火が
あなた消えます あなた消えます
越前岬

田辺酒造の真裏には「えちぜん鉄道勝山永平寺線」の線路が敷かれており、酒蔵の中には電車の音が響き渡るほどの至近距離を列車が通過する。福井の市街地から乗り換えなしで最寄り駅である「観音町」駅まで行くことができる。ちなみに酒蔵は徒歩2分の場所にある。

また、酒蔵の近隣には「けんぞう蕎麦」という辛味大根のしぼり汁に特製の出汁で食べる、越おろし蕎麦の名店があって連日大盛況の賑わいを見せている。

越前岬と言えば、川中美幸の楽曲が有名だが、福井県嶺北地方の最西端で、越前海岸随一の景勝地である越前岬から車で東に1時間ほどの場所に銘酒「越前岬」を醸す酒蔵が存在する。その酒は毎日の晩酌に寄り添ってくれるような「きょうかい6号酵母」などを中心とする香りの穏やかな食中酒として、まろやかな旨味を感じられる見事な酒質に仕上がっている。まさに、ひとり酒には最適な酒であなたの人生や記憶に寄り添い続ける酒である。越前岬の奇礁が点在し荒々しい波が打ち寄せる景色は豪快で迫力がある。それとは違って、銘酒「越前岬」は、どこか儚さを感じられるような消えゆく控えめな味わいで、まるで厳しい冬を連想させるようなキリッとした輪郭のある味わいが忘れられない。

創業1899年の酒蔵は、当主の田辺邦明氏と杜氏の田辺丈路氏が中心となって、温故知新の精神で福井の風土を活かした酒造りを頑なに守り抜いている。原料界の扱いには細心の注意を払いながら「限定吸水」での洗米浸漬や昔ながらの和釜を用いた「外硬内柔」の蒸米を追求し、造り手の五感を最大限に活かした製麴を継承する。

福井県産の酒米品種「五百万石」や「さかほまれ」を厳選し、九頭竜川の伏流水を活用しながら、厳冬期はまるで酒蔵が冷蔵庫になるような環境で醪を長期低温発酵にて丁寧にゆっくりと経過を進める。また、昔ながらの上槽技法である「槽搾り」にこだわりながら雑味の少ない柔らかで繊細な酒質に仕上げていく。ここまで昔ながらの伝統を継承し、実直で素直に少量を丁寧に醸すことを重んじるのには理由があって、銘酒「越前岬」は1987年に現蔵元と前杜氏の鷹木美芳氏がこれからの「吟醸造り」に懸ける熱い決意から誕生させたことが原点であった。

これは新しく生まれ変わる田辺酒造の再起をかけた挑戦の証でもあり、大手メーカーへの桶売りに頼れる時代も終わりを告げ、全国各地の酒蔵が急激に減少していくなかで(松岡地区だけでも戦前は17軒の酒蔵が軒を連ねていた)、地方大手の酒蔵から300石弱の小規模な田辺酒造に鷹木美芳氏が杜氏の立場から現場を支えてくれたことで「今」があることに敬意を表し、2012年に現杜氏である田辺丈路氏が就任してからも鷹木美芳氏が引退するまで実践した「徹底した吟醸造り」を親子で継承していくことを約束したそうだ。(杜氏の田辺丈路氏は鷹木美芳氏に師事し、8年のあいだ共に酒造りを行った)その年の気候風土を感じられて自然ともう一杯飲みたくなってしまう飽きのこない酒を目指し、これからも霊峰白山を源とする九頭竜川の下流に位置する永平寺町で地域の人々に喜んでもらえる柔らかく素直な味わいの酒を追求していく。
文:宍戸涼太郎
写真:茶畑七月
編集:宍戸涼太郎







