天山酒造は1875年創業の酒蔵です。もともとの七田家は佐賀県小城市で製粉・製麺業を営んでいましたが、近隣の酒蔵が廃業することを知り、初代蔵元の七田ツキ・利三夫妻が酒造業を引き継いだことが始まりとされています。天山の麓に位置する天山酒造は酒造りに最適な環境であったことも事業継承を決断する要因となったことは間違いなく、140年以上も酒造業が続いてきたことも自然の恩恵を存分に受けながら歴史を繋いできたことが伺えます。
実際、佐賀県唯一で九州でも数少ない隣町で佐賀市のスキー場が2022年に廃業するまで稼働していたことから分かるように、温暖な九州地方のなかでは冬の寒さが厳しい土地で、豊富な水資源にも恵まれていたことで、天山酒造は酒造りに適した土地で酒造りを継承したことに気付かされます。まず、天山酒造では天山の中腹から湧き出る清冽な伏流水を用いながら酒造りを行います。酒蔵の前を流れる祇園川は天山水系の水を集める清流で全国有数の蛍の里であることも知られています。そして、同じくこの伏流水が流れ落ちる「清水の滝」は名水百選にも選出されており、天山酒造にとってはなくてはならない「宝の水」です。この水には酒質の悪化を招く原因となる鉄分が無く、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル分を多く含んだ中硬水です。
天山酒造の6代目蔵元である七田謙介氏もまさに酒造りにとって理想的な水であると話します。良い酒を醸すには高品質な原料米が必要になります。天山酒造で使用するお米の約80%は地元佐賀県産のお米です。主に山田錦やさがの華を使用しながら、酒蔵の立場としても酒米栽培から携わる必要性を感じて2005年には佐賀県の農家の方々と立ち上げた「天山酒米栽培研究会」を発足させました。そこでは山田錦を契約栽培しており、年に数回の勉強会を通してお互いの栽培技術を研鑽しながら、トレサビリティにも役立ており、より良質な酒米づくりに取り組んでいるそうです。
酒造りにおいて主に必要な原料となるのは水と米であり、九州の中でも日本酒造りには最適な環境下で、天山酒造の杜氏である後藤潤氏が醪一本一本の個性を見極めながら、個性を生かす酒造りを心掛けているそうです。酒屋万流という言葉の通り、酒造りには蔵独自の造り方や作法があり、醸された酒もまた蔵ごとの味わいがあります。酒蔵には理念や拘りがあり、一様ではないということですが、杜氏は蔵の特性や蔵人たちの仕事ぶり、水や米などの原料を見極めながら、和醸良酒の精神で酒を醸します。
天山酒造の代表銘柄である「七田」は6代目蔵元の七田氏が21世紀の現代の食生活とともに輝くお酒であるようにとの構想から2001年に新たに誕生した銘柄です。「七田」は誕生してから20年以上が経過しても多くのお客様から愛され続けており、さまざまな米ごとに特性を上手に表現した味わいが愛飲家からの共感を得てきました。天山酒造は今後も地域を大切にしながら変わらないことを恐れず、チャレンジ精神も持って変わることも厭わない姿勢で、佐賀県の日本酒を牽引する存在として更なる躍進が期待されています。
文:宍戸涼太郎
写真:石井叡
編集:宍戸涼太郎