牧野酒造は群馬県最大の商業都市として知られる高崎市、上毛三山の一つである榛名山の麓、草津街道沿いの老舗蔵だ。創業は1690年、群馬の酒蔵のなかで最も古い歴史を持つ、高崎市唯一の酒蔵としても知られる。関東信越国税局酒類鑑評会では首席を2回受賞するという快挙を果たしたことでも話題になった。関東北信越地区の酒蔵のなかで首席の座はひとつしか選出されないことを考えると、この蔵の酒は快挙を果たした銘酒と呼べそうだ。近年は蔵の伝統を守りつつも、新しい醸造技術の研鑽にも注力している。蔵の歴史について振り返ると、創業当時は初代長兵衛が銘柄「長盛」を醸していたが、万延元年に幕府勘定奉行、小栗上野介が遣米使節として渡米した際、先祖が米国帰国の無事を祝い、大きな盃で祝盃をあげていたことから「大盃」に改銘したそうだ。

その銘柄は高崎市民を中心に今日に至るまで愛飲され続けてきた。。そして、杜氏で専務を務める牧野顕二郎氏は老舗蔵の新たなチャレンジとして「大盃 macho」というユニークな銘柄を2017年に発表した。直後の新型コロナウイルスの影響も重なり、「美味しいだけでは売れない現実」に直面した。「大盃」を取り扱う酒販店と相談するなか、「消費者に選んでもらうには」と真剣に協議を重ねた末に誕生したそうだ。牧野杜氏が伝統産業としての回帰的思考を尊重した銘柄でもある。低精米での醸造をコンセプトに据え、その斬新なデザインから日本酒マニアのあいだでは大きな話題を呼んだ。「大盃 macho」シリーズの印象としての低精米(たんぱく質、ゴリゴリ)ながら雑味がなく綺麗な骨格(ボディ)に仕上がっている。

群馬県高崎市は人口当たりのパスタ店が最も多いとされる地域だそうだ。群馬県は全国有数の小麦の産地として知られ、小麦を使用した粉もの料理は、高崎市民のあいだで親しまれてきたそうだ。老若男女を問わず高崎市民に広く愛されており、近年では「パスタの街」としての認知も広がり、メディアに紹介される機会も増えてきている。毎年秋頃には高崎を中心とした洋食店などが小麦文化と豊かな農作物に育まれた食文化の発展を願うイベント「キングオブパスタ」が開催され、出場各店舗が地元の食材を使った自慢のメニューを提供し、来場者の投票で「王者」を決定するイベントは1日で1万人を集める大盛況ぶりだ。ちなみに「大盃」を醸す、牧野酒造からも蔵人考案の「パスタとペアリングする日本酒「Osakazuki SAKE DI PASTA 」シリーズが展開されている。蔵元も高崎市民として、パスタの街を盛り上げたいという想いからイタリア料理とのペアリングの可能性を追求する銘柄が誕生したそうだ。

力強い眉毛は「鶴」、豪快な鼻からの口髭は「亀」。日本における吉祥を表現した「高崎だるま」。縁起だるまの始まりは1783年に浅間山噴火と呼ばれる大規模な自然災害が発生し、大飢饉が人々の暮らしを脅かしたそうだ。この惨状を解決しようと農民救済を目的として、少林山達磨寺9代目住職の東嶽和尚は張り子のだるまの作り方を豊岡村の山縣友五郎に伝授したのが起源。それから「縁起だるま」や「福だるま」とも呼ばれ、高崎の伝統工芸品として200年以上も前から張り子のだるまづくりは続いているのだ。縁を起こし、福を呼ぶ、幸運の象徴に肖ろうと、毎年1月1.2日に高崎駅西口駅前通りで開催される「高崎だるま市」は多くの人で賑わいをみせる。また、市内の工房では一般客が絵付けの体験もでき、高崎観光のお土産にいかがだろうか。

文:宍戸涼太郎

写真:石井叡

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